中村稔『人間に関する断章』

 しかし、傷つけあい、傷つきあわないような友人間に真の友情が成り立つだろうか。(中略)友情は互いの敬愛にもとづく。敬意は相手が自分の持っていないものを持っていることから生まれる。そうとすれば、敬意は羨望に転化しやすいし、羨望は怨恨に転化しやすいし、怨恨と嫌悪はほぼ同じものの変形だといってよい。これは個人的資質の問題だが、こうした感情に社会的名声、社会的地位といったものが否応なしに結びつくことも必然である。個人の能力と社会的評価は決して対応しない。だから、ますます友情の歪みは紛糾する。
 おそらく嫌悪をともなわない友情はありえない。傷つくことのない、傷つけられることのない友情はありえない。